このページでは、フェライト系ステンレスとして一般的に用いられているステンレス素材「SUS430」について解説しています。SUS430の特徴やメリット・デメリットを理解したうえで、部品加工方法を比較検討してください。
SUS430はステンレスの中でもフェライト系ステンレスとして代表的なステンレス素材とされています。
ステンレスの400番台にはフェライト系とマルテンサイト系のステンレスがあり、SUS430は400番台ステンレスにおける代表格でもあることが特徴です。SUS430はクロムのみを含有しており、基本的にニッケルを含んでいません。そのため、ステンレスの中では比較的耐食性に劣っているといったデメリットがありますが、加工しやすくコストも安いため様々な製品に使用されます。
SUS430のメリットとしては、まず加工のしやすさが挙げられます。ステンレスとして加工しやすい素材であり、日用品から工業用品まで様々なジャンルや製品として活用されていることが特徴です。
加えて、SUS430には強い磁性があるということもポイントです。これにより、磁石や磁力と組み合わせて使用するような環境や目的の場合、SUS430がしばしば使われます。
低コストで入手しやすいという点も、利用方法の幅を考えればメリットといえるでしょう。
その他、熱膨張が少なく歪みや応力腐食割れのリスクも抑えられることがメリットです。
SUS430はニッケルを含有していないため、ニッケルを含んでいるステンレスと比較して耐食性に劣っている点がデメリットです。加えて磁性があるため、磁力を不要とする場面では利用することが適していません。
また、SUS430には高温下で「475度脆化」を起こすリスクがあり、当該温度付近にまで加熱すると脆弱性が悪化して加工難易度が高まります。また焼き入れによる硬化を使えないため、特に強度が求められるような場面にもあまり適していません。
なお、475度脆化を起こしたSUS430については、さらに600~800度まで加熱して熱処理を行い、脆化を解消するといった技術はあります。
SUS430の化学成分はJISにおいて下記のとおりに規定されています。
参照元:JIS G 4303:ステンレス鋼棒
SUS430は、同じフェライト系ステンレスの中で比較すると引張強度に優れているステンレス素材となっています。ただし、SUS304などのステンレスと比べると引張強度は劣っており、SUS430を活用する場合は強度面だけでなくその他の特性も複合的に考慮してメリットを検討するようにしましょう。
SUS430の硬度を考える場合、475度脆化を無視することはできません。SUS430を含めたフェライト系ステンレスにおいて発生する475度脆化は重要であり、素材が加熱されることによって硬度が上昇する反面、延性や靭性が悪化してしまって、結果的に衝撃などに対する耐性が低くなってしまいます。
SUS430はフェライト系ステンレスとして、マルテンサイト系のステンレスであるSUS410と同程度の弾性係数(ヤング係数・ヤング係数)を有しています。一方、オーステナイト系ステンレスであるSUS304と比較すれば、SUS430の方がSUS304よりもやや弾性係数が高くなっていることが特徴です。なお、弾性は温度上昇に反比例して低下します。
SUS430はステンレス素材の中でも熱膨張率が低くなっており、加熱した際の熱膨張による素材の変形や歪みを抑えやすくなっていることが特徴です。ただしすでに述べた通りSUS430には475度脆化という課題があり、熱膨張を抑えやすいからといって加熱を続ければ脆弱性が高まってしまうといったリスクがあります。
SUS430の靭性や脆性は475度脆化による影響で悪化してしまうことが重要です。また、そもそもSUS430は熱入れによる硬化処理ができないため、加熱する際や加工時に温度上昇が発生してしまう際には十分な温度管理を行わなければなりません。
なお、脆化したSUS430はさらに高温の熱処理と急冷によって解消することが可能です。
また、高温下による影響だけでなく、SUS430には低温下での脆化が発生することも無視できません。これはフェライトが体心立方格子である科学的性質に由来するものであり、低温下では構造的な原因によって脆性が増大してしまうことがポイントです。
SUS430には強い磁性があり、磁石に付きやすいことが特徴です。
一般的に、ステンレスは磁石に付かないというイメージを抱かれることもありますが、SUS430は磁石が付くため、磁力との相互作用が求められるような場面や製品において使用メリットを追求しやすくなっています。
SUS430の比重は物性値で「7.70」となっています。
SUS430はステンレスであり、一般的な鉄と比較すれば優れた耐食性を有しており、錆びにくいことがメリットです。しかし、SUS430はSUS304と違ってレアメタルであるニッケルを含有していません。
ニッケルを含んでいるステンレスの場合、優れた耐食性を獲得できますが、SUS430のようなニッケルを含まないステンレスでは通常の鉄よりもサビに強く、その他のステンレスよりもサビやすいという性質が表れます。
反面、ニッケルを含んでいないからこそコスト的に抑えやすく活用幅が広いということも事実です。
SUS430の熱伝導率は鉄と比較して低くなっており、熱が伝わりにくい性質が特徴として挙げられます。そのため、SUS430は水筒や魔法瓶のように保温機能を求められるような食器や製品の素材として利用されます。
なお、熱伝導率が低いということは、一度でも加熱された素材は冷めにくいということでもあり、温度管理に関してはあらかじめ特性を理解した上で準備しなければなりません。
SUS430は熱伝導率が低いため温度変化を抑えて食器や工業用品などにも使いやすい反面、475度脆化という問題があります。そのため、SUS430を加工したり利用したりする場合、一般的には300度程度までの温度上昇にとどめられるよう調整されていることが多いようです。なお、脆化を解消するために、さらに高温な環境から急速に冷却する処理方法がありますが、高温環境が長引けば脆化が悪化するリスクは残り、注意が必要です。
ステンレスとして鉄よりも優れた耐食性や耐酸性を有していますが、SUS430にはニッケルが含まれておらず、SUS304と比較すると耐酸性について劣っていることは無視できません。ただし、ニッケルを含んでいないからこそ、SUS430はSUS304よりも応力腐食割れのリスクを抑えられているのは事実です。
フェライト系ステンレスは住宅のキッチンやバスルームなど水周りに関する製品に利用されやすい素材です。その他のステンレスと比較して切削性や加工性にも優れており、単に耐食性や耐久性において有利であるだけでなく、任意のデザインや設計に合わせて加工しやすいこともメリットでしょう。
なおSUS430は表面の仕上げや処理によって規格が分類されており、目的に合わせたSUS430を選ぶこともポイントです。
SUS430にはニッケルが含まれていないため低コストニーズへ対応しやすく、それも日用品や家庭用品、住宅設備に用いられやすい理由です。
SUS430は切削加工や曲げ加工に対して比較的相性の良い金属素材であり、ステンレス素材となっています。
理由としては、SUS430にニッケルが含まれていないことが挙げられます。
ニッケルはステンレスの粘度や強度を向上させる成分であり、ニッケルが多いほど切削性が悪くなるという仕組みです。
SUS430は溶接加工にも利用されているステンレスですが、熱伝導率が低いため溶接作業を行う際には温度管理が重要になります。また、長時間の高温環境は脆化を促進させるなど物理的デメリットを悪化させるリスクがあり、SUS430の溶接を行う場合はその辺りのポイントも考慮して作業できる技術者や加工業者を選ばなければなりません。
なお、レーザー溶接をする場合、ステンレスは光に対する反射性が高いため、事前の表面処理についても検討しましょう。
SUS430は表面の仕上げ方によって細かく規格が分類されていることも特徴です。そのため、それぞれの目的や用途に合わせて表面処理の工夫をすることが必要です。
一般的な表面として滑らかで一定の光沢を有する「SUS430-2B」や、つや消しされて表面が白っぽい「SUS430-No.1」、鏡面仕上げに近い光沢を有する「SUS430-BA」などさまざまなものがあるので、違いや特徴を比較検討のうえ採用しましょう。
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